「・・・!」
『闇千年城』で『六王権』が閉じていた眼を見開いた。
「陛下、いかがなされました」
計ったようなタイミングで『影』が現れる。
「・・・『赤月の涙(スカーレット・ティアー)』が暴走した」
「暴走した?それは・・・つまり・・・」
「ああ、オーテンロッゼが死んだ。そして新たな宿主を求めて暴走状態に入った」
「しかし、何者が・・・」
「そこまでは判らぬがな、直ぐに情報を集めさせるだけだ。それよりも『影』首尾は?」
「はっ、全て滞りなく」
最高側近の言葉に『六王権』は満足げに頷いた。
四十四『戦線崩壊』
もう直ぐ士郎の体内に侵入するかと思われたそれであったが、忽然と現れた鋼の防壁の前に弾き飛ばされる。
その際金属の発する甲高い音に肩の力を抜いていたアルトリア達が慌てて臨戦態勢を整える。
「シロウ!どうしたのですか!」
「判らん、敵だと言うことに間違いはなさそうだ」
だからこそ王国の剣が士郎の護衛に現れたのだから。
(クソ、モウスコシシンチョウニウゴクベキダッタカナ)
謎の声は正しい。
もう少し様子を見ればよかったのだ。
そうすれば士郎は『剣の王国(キングダム・オブ・ブレイド)』を解除しただろう。
その時、士郎にあの奇襲を防ぐ手段は無い、それはあっという間に目的を果たしていたに違いない。
「何処にいやがる!出てきやがれ!」
セタンタの声に反応したのか目の前の赤い球体が膨張を始める。
膨張といっても、ビー玉大の大きさからボーリング程の大きさになっただけであるが。
「なんだあれ?」
(ワレカ?ワレハ、スカーレット・ティアー)
「スカーレット・ティアー?」
(ソウ、サッキマデココニタヤクタタズノナカニイタ)
その言葉を聴き一堂は誰とも無く理解した。
「そう言う事か。奴の異常までの再生力、あれが一枚噛んでいたって事か」
全員の心境をディルムッドが代弁する。
(ソウダ。ダケドコウモハヤクヤツヲケシテクレルトハオモワナカッタ。)
「何・・・だと?」
全員がその言葉に疑問を持った。
それはまるでオーテンロッゼを使い捨てにするかのような言葉だったのだから。
実際それは正しい。
実は『赤月の涙(スカーレット・ティアー)』とは薬などではない。
かつて『朱い月』の祖先達ががある目的の為に創り上げた魔道生物。
死徒・・・正確に言えば真祖の眷族がそれを取り込めば、驚異的な力と尋常でない再生能力を与えその代わりに宿主の全てを食い尽くす。
だが、それは人間であっても同じ、いやもっと性質が悪い。
宿主に何の恩恵も与える事無く、少しずつ、宿主も気付かぬ内に血も肉も心も魂も食らい尽くし『赤月の涙(スカーレットティアー)』は成長していく。
宿主を少しずつ食い尽くし、個人を、家族を、町を、都市を、国を、最終的には一つの星全ての生命を滅ぼす生物兵器、それが『赤月の涙(スカーレット・ティアー)』の正体だった。
「どういう意味だ?てめえ」
そんな事等知る筈もない、セタンタの詰問じみた質問に対して、
(マアイイサ。アレヨリモモットイイエサヲミツケタノダカラ)
『赤月の涙(スカーレット・ティアー)』は完全に無視して独白した。
「餌?」
そうアルトリアが呟いたと同時に『赤月の涙(スカーレット・ティアー)』から触手が噴き出し士郎に迫り来る。
『!!』
だが、それもまさしく瞬間移動のように現れた剣の防壁が容易く弾く。
「シロウ!!」
「大丈夫だ、アルトリア。俺がこの世界を展開している限り、此処にある剣は全て俺の味方だ」
だが、それでも臆する事無く次々と触手の数を増やし、速さを増して迫り来るが、剣の壁はただの一本すら侵入を許す事はない。
(チィ・・・ムリカ・・・ナラバホカノ)
「させると思ったか!アホが!!」
『赤月の涙(スカーレット・ティアー)』の言葉と今までの行動から何をしようとしているのか漠然としてだが、理解したアルトリア達が一斉に『赤月の涙(スカーレット・ティアー)』に攻撃を仕掛ける。
流石に危険と判断したのか一瞬にして魔術防壁を創り上げる。
かなりの強度なのか、全員の攻撃を悉く弾き飛ばす。
いや、良く見れば幾度か破壊されているが瞬く間に再構成される為に、攻撃は一度とて通さない。
「通用するか!!」
ディルムッドの『破魔の赤薔薇(ゲイ・ジャルグ)』が迫るが、そのような事等お見通しなのだろう、無数の触手が一つに束ねられ、ディルムッドを横に打ち払う。
「ぐっ!」
幸い防御は万全だったのでさしたるダメージを受けていないがそれなりの距離、飛ばされる。
その隙に後ろの一行にその触手を差し向けようとするがそれも無駄だった。
「剣よ、守れ」
士郎の号令と共に剣の壁が姿を現し先程と同じくただの一本も通さない。
更に剣群の一部が弾丸となり、『赤月の涙(スカーレット・ティアー)』に攻勢をかける。
(ムダダヨ。ソンナノコノボウヘキニツウヨウシナイヨ)
馬鹿にした声を発して再び防壁を張り巡らせる。
「・・・だろうな。それが目的だけど」
そう言って士郎はコンテンダーを引き抜く。
既に弾丸は再装填を済ませており、引き金を引く。
轟音と共に放たれた弾丸は防壁に命中。
同時に、『赤月の涙(スカーレット・ティアー)』の魔術回路は完全に崩壊、それにあわせる様に触手はささくれ、所によっては破裂する。
そしてその影響は本体にも当然のように及びその球体はゆがみ、ひび割れる。
(ガ、ガガガガ・・・)
苦悶の声だろう、発して小刻みに震える。
士郎が撃ち放った魔弾は三発目にしてようやく正しい効果を得た。
「終わりだ」
短くそう言う士郎の手にはコンテンダーからあの剣が握られていた。
いつの間にか士郎の前方を守っていた剣は姿を消している。
「・・・」
無言で構える剣からは光と闇が渦を巻き螺旋を描く。
「交錯する絶望と希望分かつ(スパイラル)」
裂帛の気合から一気に剣は振り下ろされる。
「運命の裁断(フェイト・ブリンガー)!」
光と闇の一撃は魔弾のダメージに動く事すらままならない『赤月の涙(スカーレット・ティアー)』を飲み込む。
そして士郎は飲み込んだ後も構えを解く事はない。
やがて周囲の希望と絶望を飲み込み威力のランクを最大値まで跳ね上げる。
(アアアアアア・・・ヤ、イヤ・・・・ダ・・・セッ・・・カク・・・デ・・・テ・・・コレ・・タ・・・)
最期に断末魔にも似た声を脳裏に響かせた後はもう何も聞こえる事は無かった。
しばらくしてから、ようやく士郎は『交錯する絶望と希望分かつ運命の裁断(スパイラル・フェイト・ブリンガー)』の発動を解除したが、そこに『赤月の涙(スカーレット・ティアー)』が存在していた名残は何一つ存在していなかった。
「これで・・・終わったか」
静かに呟き、『剣の王国(キングダム・オブ・ブレイド)』を解除する士郎。
そこはやはり偽りの闇に包まれたロンドン。
しかし、もはや悪夢のような霧は無く、闇のみが満ちている。
「・・・ふう・・・どうにか守れた・・・」
そう言う士郎に、
「はっはっはっ!!エミヤ、前回に加え今回もご苦労だった!!余の鼻も高いというものよ!!」
イスカンダルが豪快に肩を抱く。
「ははは・・・恐縮です。イスカンダル陛下」
そこに申し合わせたように
「「シロウ」」
アルトリアとイリヤが近寄ると同時に今の今まで聞けなかった質問を口にした。
「聞きたい事があります」
「シロウ、そのコートは何?」
それを皮切りに凛達も士郎に近寄る。
「士郎、判っていると思うけどこっちの質問洗いざらい答えてもらうわよ」
問われた方はといえばやはりと言うような表情をした後、
「そうだな、そう言えば何も説明してなかったな。俺に答えられる範囲でなら答えるとするよ。ただ此処だとかなりまずいと思うから」
確かにと全員頷く。
視線の先にはようやく各地の状況把握に努める『クロンの大隊』とバルトメロイがいる。
特にバルトメロイは士郎に視線だけで殺せる殺意を隠す事無く浴びせ続けている。
ここで色々話すのはあまりにも危険だった。
「それもそうね。じゃああんたが寝ていた病室に行きましょう」
こうして『第四次倫敦攻防戦』または『イギリス南部攻防戦』の幕は下りた。
『六王権』軍はイギリス方面軍の全滅、十七位トラフィム・オーテンロッゼの戦死の損害を受けて、もはやロンドン侵攻所かドーヴァー突破すら不可能なほどの致命的な損害を受けた。
だが、人類側も無事とは言いがたい。
協会戦力はフリーランス部隊を中心に数にして四割に届く死亡が確認。
これに国連まで加えれば全体の三割近くを喪失。
更にロンドン魔道要塞はオーテンロッゼの『霧中放浪(ミストロード)』の影響でその機能は完全に停止、その復旧にも当らなければならなかった。
それには三ヶ月以上は確実に掛かる。
その為にこちらも戦力をロンドンに駐留させて要塞復旧まで警護に当らなければならなかった。
だが、幸か不幸か『六王権』軍がロンドンに侵攻する事は二度と無く、ロンドン攻防戦はこの戦いで幕を下ろすがそれは誰も知らぬ事である。
「・・・滅びたか・・・」
『闇千年城』にて『六王権』が静かに呟く。
「陛下?滅びたというのは・・・もしや」
「そのもしやだ」
それにいささかの驚愕の表情を浮かべる『影』。
「なんと・・・しかし、奴が滅びたのは少々速過ぎましたな」
「速過ぎる。その為に『赤月の涙(スカーレット・ティアー)』の使用はぎりぎりまで控えよと言い含めていたが・・・」
怒りも露わに吐き捨てる。
計画ではリタが兵力補充を行った後、ロンドンに兵力を送り込む、その補充戦力を糾合させた上でイギリス全土制圧。
そしてその後、海軍を使いアイスランド、グリーンランド最終的にはアメリカ大陸に北部からの本格的な侵攻を行う筈だった。
それがオーテンロッゼの『影』への余計極まりない野心、競争心から全て台無しにされてしまった。
「最後の最後まで我々の足を引っ張ってくれる・・・」
有能であるし有力な二十七祖であるにも拘らず此処まで扱いづらい奴はいなかった。
いっそ完全な人形にしてしまえば良かったと悔やんでならない。
だが、何時までも過去の事を悔やんでも始まらない。
気を取り直し、各地の軍の統括の為に散った『六師』達に『ダブルフェイス』を介して報告を受ける。
「『闇師』、リタの状況は」
「はっ、既に予定兵力確保に成功、先陣五万を『マモン』に乗せてドーヴァーに向わせたと連絡が、また、既に中部アフリカのいくつかの国を制圧に成功したのと事です」
「制圧した国は」
「はっ、モータリア、セネガル、ガンビア、ギニアビサウ、ギニア、シエラレオネです」
「結構、同じ数をもう一度送った後は本隊を率い再び東に向かい中東、アジアを目指せと伝えよ。『光師』、戦力は全てドーヴァー守備に回せ」
「はい」
「次に『水師』、海軍の戦況を」
「はい、スミレ率います本隊は今も敵海軍との戦闘で一進一退の情勢、未だ地中海の完全制圧には至らず。分隊につきましては中部大西洋を完全制圧の後、南大西洋に進軍を開始する予定です」
「船の燃料については私のほうで責任を持って用意させるわメリッサ姉さん。補給の港については後で報告を入れるわ」
「ええお願い。それと闇も広げておいて」
「判ったわ」
「次に『地師』ロシア方面の戦況は」
「はっ、既にバルト海沿岸の三国、エストニア、ラトビア、リトアニア、ベラルーシを制圧、ロシアに侵攻、スカンジナビア方面の軍と合流、モスクワまで進めましたが、敵の防衛線は未だ健在突破には至っていません」
「そうか、『炎師』、『風師』」
「申し訳ありません陛下、ウクライナまで侵攻を進めたのですがそこでかなり手間取って・・・」
「キエフ制圧までは順調だったのですが、相手も戦線を後退させ徹底抗戦の構えを崩していません。ただ、オデッサについては『影』殿の援軍を受けて完全制圧を完了、作戦通り行動を開始しました」
「うむ、ご苦労」
そして舞台は再びイスタンブールに移し、時をグランスルグとメレムとの戦闘後まで戻す。
志貴達が重傷のメレムを連れてイスタンブールに帰還した数日後にロンドンが全面攻勢を受けたとの報を受けた。
援軍を出そうにもグランスルグと相対している現状では動く事は出来ない。
それもあって、しばし焦燥に包まれていたのだが、それをも掻き消す凶報がその翌日もたらされた。
黒海沿岸最大の都市であり、ロシア、中央アジア戦線の重要拠点の一つであるオデッサの陥落である。
ロシア、中央アジア戦線においてウクライナの役割は極めて重要な立場を担っている。
黒海の防衛を努めるのと同時にロシア南方からの『六王権』軍侵攻を食い止める防波堤としての役目も担っていた。
現状首都キエフを失ったが、それでもおよそ四百キロ東の都市、ハルキフに首都機能を事前より移動させていた為、現在ではハルキフを臨時首都として徹底抗戦を続けている。
本来ロシアとの関係は良好とはいえない関係だったが、それでも『六王権』軍防衛の為に表向きは団結し、協定を結んだ。
現にオデッサにはロシア軍が駐留しウクライナ軍、『彷徨海』残党、ロシア正教の代行者達と共に『六王権』軍の攻勢を何度も食い止めてきた。
だが、それが何の前触れも無く陥落した。
しかも、オデッサを落とした『六王権』軍は例の輸送兵器に乗り込み、東に向っていると報告を受けて志貴達は愕然とした。
今回の報を受けて志貴達が対策を練る。
「エレイシア先生、オデッサ陥落の詳細な情報は無いのですか?」
琥珀がオデッサに関する情報を求めるが、それに関してエレイシアの返事は良いものではなかった。
「いえ、現地でも情報がかなり混乱しており、詳細な情報はまだ届いていません。それ所か正確な被害数すらまだ未確定なんです」
「そうですか・・・」
「仕方ないですわ琥珀、今は無い物を強請っていても何も進展はしません。それよりもこれからどうするかの方が先決ですわ」
「ああ、秋葉の言う通りだ・・・」
「そうだね。じゃあエレイシア先生、情報の収集を引き続きお願いしてもよろしいですか?」
「ええ判っています。こちらも可能な限り現地の情報を集めさせます」
オデッサに関する話が一段落した所で改めて今回の事態が話の中心となる。
「それにしてもまずいぞ。おそらく奴らの目的はイスタンブールの後方に回る事だ」
「ええ、このまま後ろに回られればイスタンブール後方は大パニックに陥ります。ただでさえ、ウクライナ北部戦線、更にロシア戦線ではこの情報が伝わったのでしょう、部隊に動揺が見られると報告も上がっています。ですが、志貴君、今私達は」
「そう、チョルルの敵と対峙している。それを考えると動く事は出来ない。でも姉さん、動かなければ遠からずイスタンブールは孤立します」
「かといってオデッサから出た敵を迎撃しようとすれば『黒翼公』が確実に動きます。手薄になったここを落とす為に。そうなれば」
「ええ、イスタンブールはひとたまりも無い。姉さん、オデッサを突破した『六王権』軍の部隊は?」
「最新情報によると、『六王権』軍はオデッサから東に約百キロ、ドニエプル川に位置する中規模都市ベルソンに向っている所を発見されました。既にベルソンにはオデッサの駐留部隊が後退、この地に結集して防衛ラインを敷いたと報告が上がっています」
「主要道路に沿って移動したとすれば、オデッサ〜ベルソン間の都市は壊滅したと見ていいな。そうなると仮にベルソンを突破した場合敵は次にどのルートに向うのか・・・」
ベルソンを突破した後大きく分けて二つのルートがある。
このまま東に進路を取り、黒海北のアゾフ海沿岸に位置する、ロシア北カフカス連邦管区の中心都市ロストフナドヌーに向うルート。
もう一つはベルソンから南に進路を取りクリミア半島を通り黒海、アゾフ海を繋ぐケルチ海峡を横断して黒海東海岸に進出するルート。
「シオン、『六王権』軍はどっちを取る可能性が高いと思う?」
「・・・正直難しい所です。アゾフ海を目指すルートでしたらロシア側にかけられるプレッシャーは想像以上です。ですが、クリミア半島を越えるルートを採択すれば前者よりも早く中東諸国やトルコに圧力を加えられます。ただでさえ、イスラム原理主義組織が騒いでいる現状を鑑みればどちらの成功も許してはなりません。成功すればどんな行動を起こすか・・・」
「そうか・・・どちらにしても時間をかければ相手の思う壺・・・姉さん、ここは大勝負に出ようと思いますがどう思いますか?」
「勝負・・・ですか?」
「はい」
エレイシアの質問に短い言葉ながらはっきりと頷く。
「大勝負?どう言う事なの志貴?」
「!!まさか、志貴ちゃん」
志貴の言う大勝負の内容を察したのか琥珀が声を上げる。
シオンも気付いていたのかやや青白い顔で志貴を見つめる。
「ああ、そのまさか、チョルルに攻勢に出て先に『黒翼公』を叩く」
志貴の思わぬ発言を受けて全員が騒然となる。
「無茶よ!志貴いくらなんでも」
「そうよ!!グランスルグは歴史、実力共に『白翼公』にも比肩する死徒よ。いくらなんでも」
「じゃあ孤立した状態で『黒翼公』と戦うか?」
「そ、それは・・・」
「無茶は承知の上だよアルクェイド、アルトルージュ。だけど多分今この時が俺達の勝率が最も高いんだと思う。まだ挟み撃ちされていない今が」
「・・・」
志貴の言葉に全員無言となる。
それは消極的ながら志貴の提案に賛成の意向を示していた。
そんな中エレイシアが苦い表情ながら遂に決断した。
「・・・そうですね。確かにまだウクライナ領内にいる今が最後のチャンスですね。イスタンブールの主力戦力による精鋭部隊を編成、それを持ってチョルルの『黒翼公』を叩きます。主力部隊ですので志貴君達とミス・ブルー、それと教会からはダウン、メレムを除く全埋葬機関員、そして代行者の中でも精鋭を選抜します。作戦開始は明朝五時、それまで志貴君達は英気を養っていて下さい」
そして翌日、深夜三時既にイスタンブール郊外には志貴達とエレイシアを筆頭にした代行者精鋭部隊が既に集合、出撃前の最後の確認の真っ只中だった。
「じゃあ俺達がフィナさんの船に乗り、一足先に出撃します」
「はい、それでお願いします志貴君、私達は予定通り五時から陸を進軍します」
「俺達でも発見次第、出来る限り敵を消耗させておきます。姉さんご無事で」
「志貴君こそ気を付けて下さい。『黒翼公』は間違いなく二十七祖でも上位の祖なんですから」
「はい」
「志貴ー!そろそろ出るってー!」
「フィナの準備も万全よ。皆乗り込んだわ」
「判った!!直ぐに行く!!じゃあ姉さん」
「はい、気をつけて志貴君、チョルルで会いましょう」
こうしてチョルルへの電撃攻撃作戦『タイム・イズ・マネー』が発動された。
だが、『六王権』軍も何処で嗅ぎ付けたのか、人類側の攻勢を察知、迎撃にチョルル駐留の全軍を向わせる。
無論指揮を取るのはグランスルグ。
そして、再び両軍は再びシリウリで激突、激戦期から反攻期への移行を占う最後の戦闘『シリウリの戦い』の土壌は整えられたのだった。